J市民メディア・インターネット新聞JANJAN 2006/04/26
06年4月20日、こんな記事が各紙一斉に載った。「国宝・東大門に『みんな大スキ』」(読売新聞)。法隆寺(奈良県生駒郡斑鳩町)東大門のヒノキの柱に、落書きが見つかったのだ。「西和署は悪質ないたずらとみて、文化財保護法違反や器物損壊の疑いで調べている。文字の一部は柱を深くえぐっており、寺は文化庁と補修方法について検討する」(読売新聞)
法輪寺三重塔(斑鳩の里)
こんな「悪質ないたずら」には、もうウンザリだ。これが修学旅行生の仕業とは断定できないが、群集心理というのか、とかく集団で行動する生徒・児童には迷惑行為が目立つ。
法隆寺では「過去にも小さな落書きが見つかった」(同)そうだが、同日の産経新聞は「名古屋城の櫓にも」の見出しで、国の重要文化財の櫓(やぐら)と門に、人名など多数の落書きが見つかったことを報じていた。
天武忌(明日香村の天武・持統天皇陵で)
修学旅行生の仕業と判明した過去の事例では、埼玉の中学のケースがある。東大寺(奈良市)の国宝・南大門で「観光客や修学旅行生らのいたずらとみられる落書きが相次いでいる」(00年5月22日付 日本経済新聞夕刊)。その落書きのうち「修学旅行で訪れていた埼玉県内の中学校が文言中の自校名に気付き、既に寺側に謝罪していたため『決着』した。しかし周囲を磨いて古色を塗る修復作業が必要だという」。おびただしい落書きの中にはクギやナイフで刻まれたものも多かったそうなので、修復はさぞ大変だったろう。
天川村の母公堂(ははこうどう)。「従是(これより)女人結界」の碑が立つ
お寺以外でも「竹林、落書きに泣く 奈良・明日香村の史跡『酒船石』周辺」(朝日新聞 98年5月2日)という記事があった。「小高い丘の上にある酒船石の周囲は一面の竹林だが、そのうちの約百本が落書きされている。針金のようなもので彫られたり、油性フェルトペンで書かれたりの被害を受けている」
「神戸市○○区○○中学校」「○○小学校六年二組」など、「修学旅行生が残したと見られる落書きが目立ち、グループ全員の名前を並べたものが多い」そうだ。酒船石(さかふねいし)自体に被害がなかったのは、なによりだった。
最近は班とか少人数のグループで自由に行動させる学校が多いから、野放図さに拍車がかかる。4月20日の読売新聞奈良版では「このような落書きが増えれば非公開になってしまう可能性もあり、やめてほしい」という奈良県警担当官のコメントも紹介しているが、なるほど、修学旅行や遠足の生徒・児童に対しては、こちらが「非公開」にすれば良いわけだ。
池泉回遊式の名園で知られる蓮華寺(れんげじ 京都市左京区)は「修学旅行の中学生お断り」の寺と聞いたことがある。お寺に電話して確認してみたところ、やはり修学旅行を受け付けていないそうだ。お寺や庭を観賞できる年齢に達してから来てほしいという趣旨で、家族連れでの参拝は認めている。
相倉(あいのくら)の合掌造り民宿(富山県南砺市相倉)も、修学旅行生は受け入れない。「隠れて煙草を吸う生徒もいるため、火事になっては大変」(読売新聞1996年5月26日)だから、というのがその理由だそうで、過去にはそれに近い事例があったようだ。
今回の法隆寺の事件を受けて河上邦彦氏(考古学者・神戸山手大学教授)は「国の方針として、中学や高校で文化財について教育をしなければならない。文化財の意味や大切さを教えてこなかった大人が悪い」(06年4月20日付 奈良新聞)と語っている。何しろ中学の歴史教科書のなかには、奈良時代に関する記述をわずか本文2ページで済ませているのもあるというから、国も教師も「文化財の意味や大切さを教えてこなかった」のは明白だ。学校で教えないのなら、それで結構。そのかわり生徒に実物を見せなくても、おあいこでしょう。
全く、修学旅行や遠足などで奈良に来てほしくない。世界遺産も古代史の舞台も世界最古の木造建築物も、彼ら彼女らにとっては「猫に小判」なのだ。本当はUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)や天保山ハーバービレッジや東映太秦映画村に行きたいのに、教師が奈良へ行くというから渋々ついてきているだけなのだろう。
奈良県民は、声を揃えて「修学旅行生お断り!」と叫ぼう。ただし総合学習や自由研究やクラブ活動などで、奈良を本当に勉強したいという感心な諸君は、どうぞご家族連れで来ていただきたい。
(大和田太郎)