NIKKEI 日本経済新聞 社説 平成19年3月13日:
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20070313MS3M1300113032007.html
日本人はオーストラリアにどんなイメージを持っているのだろう。南半球にある豊かな農業国であり、ある世代以上には「白豪主義」で知られた英連邦の国の印象だろうか。いまこの国はアジアに顔を向けている。経済中心だった日豪関係は、政治安全保障面でも強まり、戦略的意味を深めている。
安倍晋三首相はハワード首相との日豪首脳会談で「安保協力に関する日豪共同宣言」に署名した。日豪はともに米国の同盟国であり、日米豪の三角形が太平洋を囲んでいる。日豪両国は同盟条約こそ持たないが、それに近い関係になった。
外相級の日米豪戦略対話も2回開催されている。日豪両国は太平洋の南北にある広い意味の島国であり、国際情勢の安定を前提とする貿易立国を国是とする点で戦略的利益を共有する。
安全保障関係ではイラクの自衛隊の活動を治安維持面でオーストラリア軍が支えたのをはじめ、スマトラ沖地震の際の津波被害の救援活動、反テロ、北朝鮮政策でも共同歩調をとっている。共同宣言はこうした協力をさらに進める内容である。両首脳は会談後の共同記者会見で、これが中国を敵視するものではないとの考えを強調した。当然だろう。
貿易構造は日本が自動車などを輸出し、石炭などエネルギー資源や牛肉を輸入する相互補完型であり、首脳会談では経済連携協定(EPA)の交渉開始を確認した。農業問題を克服し、円満な合意が早期になされるよう期待する。それが日豪の戦略関係の証左になるだけでなく、双方にとっての利益となるからだ。
オーストラリアの日本語学習者は38万人で韓国に次ぐ数である。2005年にオーストラリアを訪れた日本人は69万人、日本を訪れたオーストラリア人は20万人と人的往来も活発だ。日豪間の厚い関係を支えるのは、適度に遠く、適度に近い地理的関係も幸いしているのだろう。日豪間は時差をほとんど感じることなく互いに移動できるのも利点である。
日豪関係を単なる戦略関係と考えるのは実はさびしい。日豪は利害関係を離れても、太平洋を挟んだ親しい友人同士でありたい。